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横浜地方裁判所 昭和45年(ワ)1422号 判決 1971年12月09日

原告

山森敏夫

被告

小形貞夫

ほか一名

主文

被告小形貞夫は原告に対し金四二六、一七七円及びこれに対する昭和四五年八月一〇日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告の被告小形澄雄に対する請求及び被告小形貞夫に対するその余の請求はいずれも之を棄却する。訴訟費用の負担については、原告と被告小形澄雄との間に生じた部分は原告の負担とし、原告と小形貞夫との間に生じた部分については、これを五分し、その三を原告その余を被告小形貞夫の負担とする。

この判決は第一項にかぎり仮りに執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、「被告らは連帯して原告に対し金一、〇六五、四四三円及びこれに対する昭和四五年八月一〇日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決竝に仮執行の宣言を求め、その請求原因として次のとおり述べた。

一  原告は、昭和四四年一二月一五日午後四時四五分頃、相模原市永川町八番地先道路を横断歩行中、相模原方面から橋本方面へ進行中の被告小形貞夫(被告貞夫という)運転の自動車(多摩5そ3254号、被告車という)に衝突されてその場に転倒し、加療約七ケ月以上を要する頭部外傷、外傷性頭頸部症候群、右大腿部挫傷の傷害を負つた。

二  本件交通事故は、被告貞夫の前方不注視の過失に基づき惹起されたものであり、被告小形澄雄(被告澄雄という)は、自己のために被告車を運行の用に供する者であり、本件交通事故はその運行によつて生じたものであるから、被告らは原告の損害を賠償しなければならない。

三  損害

1  休業補償 金五五五、四四三円

原告は、訴外株式会社石森製作所に勤務し、一ケ月の平均給与は金七九、三四九円であり、七ケ月間休業したので、その間の休業補償は合計金五五五、四四三円である。

2  慰藉料 金五〇〇、〇〇〇円

原告は、現在三二才であるが、前記負傷により現在なお脳波異常、頭痛、健忘等があり、通院加療中である。家庭には妻(二八才)と二人の幼児があるのに今なお働くことができず、妻の内職によつて僅かに生活を維持している現状である。将来も完全に治癒するか否か不確定で、これらの精神的苦痛は金銭として見積ると金五〇〇、〇〇〇円が相当である。

3  交通通信費 金一〇、〇〇〇円

原告は、前記負傷により、昭和四四年一二月一五日から同四五年三月二九日まで相模原市相模原四―一一―四相模原伊藤病院に入院し、同年三月三〇日から同年四月一三日まで同市鹿沼台二―一九―一三石川整形外科医院に入院し、同年五月一四日まで通院治療をうけ、その後現在まで東京郡墨田区江東橋四―四一東京都立墨東病院に通院治療をうけている。この間の交通通信費は約金一〇、〇〇〇円である。

四  よつて、原告は被告らに対し、連帯して金一、〇六五、四四三円およびこれに対する本件訴状送達の翌日である昭和四五年八月一〇日から支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるため、本訴請求に及んだものである。〔証拠関係略〕

被告ら訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、原告主張の請求原因事実中、その主張の日時場所において、被告貞夫運転の被告車と原告が衝突したことは認めるが、その余の事実はすべて争うと述べた。

一  被告貞夫は次のとおり主張した。

1  本件衝突は、原告の無謀横断により生じたものである。

被告貞夫は、前方を注視して時速三〇粁程度で徐行運転し、相模原方面から橋本方面に進行中、原告はすぐ近くに横断歩道があるのに、原告は自転車を駐車し、そのまま横断歩道を通らないで突然路上に飛び出したものである。

2  本件交通事故当時、被告車は常に充分整備されており、構造上の欠陥又は機能の障害は全然無かつた。

3  仮りに被告貞夫に過失があつたとしても、原告にも過失があるので過失相殺を主張する。

二  被告澄雄の主張

被告澄雄は被告車の保有者ではない。被告貞夫が被告車を購入しこれを管理使用しているものである。〔証拠関係略〕

理由

一  原告主張の日時場所において、被告貞夫の運転する被告車と原告が衝突したことについては当事者間に争いがない。

二  〔証拠略〕によると、原告は本件交通事故のため頭部外傷、外傷性頭頸部症候群、右大腿部挫傷の傷害を被つたことが認められる。

三  被告貞夫の過失について判断する。

1  〔証拠略〕によると、被告貞夫は、被告車を運転して、時速三五粁位で永川神社方面から相模原駅方面に向けて進行中、原告が一斗罐を右手に持つて、道路前方左側に、停車していたトラツクの後ろに立つているのを発見した。そのとき、原告は立ち止つて、左右を見て道路を横断しようとしていたのであるが、被告貞夫は、原告が罐をトラツクに積み込むためであつて、道路を横断するものではないと軽信し、そのまま進行した。ところが、被告車が原告に二三米まで接近したとき、被告貞夫は、原告が道路を横断しはじめたことに気がつき、直ちにブレーキをかけたが間に合わず衝突したことが認められる。

右認定に反する〔証拠略〕は信用できない。

2  右認定のような状況においては、原告が道路横断をはじめることも十分に予想されるのであるから、被告貞夫は、原告の動静を十分に注意し、進路の安全を確認のうえ進行する注意義務があるものと云うべきである。ところが、右認定のとおり、被告貞夫は、原告がドラム罐を持つていたので、トラツクに積込むために立つていて道路を横断するものではないと軽信し、右の注意義務を怠り、漫然と進行したものであるから、これに過失があること言うをまたない。

よつて、被告貞夫は民法第七〇九条によつて原告の被つた損害を賠償しなければならない。

四  被告澄雄の責任について検討する。

1  〔証拠略〕によると次の事実を認定することができる。被告澄雄は、その妻と息子の訴外小形敏夫(訴外敏夫という)夫妻と同居して食堂経営をしているものであるが、食堂の仕入、出前に使用するため被告車を金七〇、〇〇〇円で購入し、これを訴外敏夫に使用させていた。

ところが、昭和四三年五月一六日訴外敏夫は別に中古車を購入して被告車に乗らなくなつたので、同年六月一五日被告澄雄はこれを被告貞夫に金三〇、〇〇〇円で売り渡した。被告貞夫は、被告車を購入後、登録と保険契約の名義は被告澄雄のままに残しているが、これを自宅に持帰り、保険料を支払い、ガソリン代も修理代もすべて自己で負担している。そして又、被告車に被告澄雄を乗せたことも、同被告のためこれを使用したことも全くない。

2  右の事実によると、被告澄雄は名義こそ残しているものの、被告車に対する運行支配も運行利益も全く有していないものと解されるから、自動車損害賠償保障法第三条にいう「自己のために自動車を運行の用に供する者」に該当しない。従つて、原告の被告澄雄に対する本訴請求は理由がない。

五  損害

1  休業損

〔証拠略〕によると、原告の一ケ月の平均給与は金七九、三四九円であり、前記傷害のため受傷後七ケ月間休業を余儀なくされたことが認められる。よつて、この期間の休業損の合計は金五五五、四四三円である。

2  交通通信費

〔証拠略〕によると、原告の入院した伊藤病院、石川整形外科医院、通院した墨東病院に、原告と原告の妻が通院した交通費、通信費は少くとも金一〇、〇〇〇円であつたことが認められる。

3  過失相殺

〔証拠略〕によると、原告は横断歩道が近くに存在するのにこれを渡ろうとせず、横断歩道でないところを横断するに際し、最初永川神社方面(右側)を見て、それから相模原駅方面(左側)を一分間足らず見ながら車の通過するのを待ち、更に右側を見ることなしに直ちに横断を開始したことが認められる。そうすると、原告には、横断歩道を渡らず、かつ、右側の安全確認を怠つた過失があるものというべきである。

よつて、原告と被告貞夫の過失割合を対比すると、原告六割、被告貞夫四割と解するのが相当である。

右原告の損害額の合計は金五六五、四四三円であるから、これから六割を減じた金二二六、一七七円(円以下切捨)が被告貞夫に請求できる金額である。

4  慰藉料

本件交通事故の原因、様態、原告の被つた傷害の部位程度、治療経過、原告の過失割合その他諸般の事情を斟酌すると、原告に対する慰藉料は金二〇〇、〇〇〇円が相当である。

六  そうすると、被告貞夫は原告に対し、金四二六、一七七円およびこれに対する本件訴状送達の翌日である昭和四五年八月一〇日から支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払わなければならない。

よつて、原告の本訴請求は右の限度において正当であるからこれを認容することとし、その余は失当として棄却する。訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条、第九二条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石藤太郎)

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